被害者が死亡した場合でも、後遺障害逸失利益は就労可能年数までの額が認められます。
ただし、将来介護費用については死亡時までしか認められません。
基本の考え方
後遺障害逸失利益とは、「被害者が後遺障害を負ったために、労働能力が終身にわたって低下するため、本来得られるはずであったはずの収入が減少した損害」を埋めるものです。
後遺障害は治癒しないので、後遺障害逸失利益は、就労可能年齢(原則67歳)までの額を計算します。(例:30歳で後遺障害を負った被害者は67歳まで働けるものとして、37年分の後遺障害逸失利益が算定されます。)※神経症状などの一部の後遺障害は、就労可能年齢まで逸失利益を計算しないものもあります。
では、被害者が就労可能年齢に達する前に、交通事故と全く別の原因で死亡してしまった場合どうなるのでしょうか。
実際は、就労可能年齢まで働くことができなかったのだから、後遺障害逸失利益も死亡時点までしか発生しないのではないかとも考えられます。
判例の見解
この点、最高裁判所は、「交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、…右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない」と判断しました。(最高裁平成8年4月25日判決)
つまり、30歳で交通事故に遭って後遺障害を負った被害者は、後遺障害を負った事故とは別の原因で50歳で死亡したとしても、67歳までの37年分の後遺障害逸失利益が得られるということです。
これは、就労可能年齢までの後遺障害逸失利益は交通事故の時点で既に発生しているから、その後の死亡の事情は後遺障害逸失利益の算定には影響しないという考え方によるものです。
将来介護費用は死亡時点まで
ただし、後遺傷害を負って介護費用が必要になった被害者が死亡した場合の将来介護費用については、最高裁判所は死亡時点までしか認めない見解です(平均余命までの将来介護費用を認めない)。(最高裁平成11年12月20日判決)